こんにちは。高級モトクラブ、運営者のAです。
憧れのハーレーダビッドソンに乗ってみたいけれど、実際のところハーレーは何ccなのか、自分がいま持っている免許の種類で運転できるのか、気になっている方は多いのではないでしょうか。
かつては大型免許が必須と言われていましたが、最近は中型免許で乗れるモデルも登場しており、排気量の違いによる税金や維持費のルールも少し複雑です。
今回はそんなハーレーの排気量に関する疑問を、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。
- 普通自動二輪免許で乗れるハーレーの排気量と最新事情
- ハーレーダビッドソンの歴代エンジンの排気量一覧
- 排気量の違いによる税金や車検費用の詳細な仕組み
- 自分のライフスタイルに合った最適な排気量の選び方
普通免許で乗れるハーレーは何ccか
長らく「ハーレー=大型免許」という常識がありましたが、ここ数年でその状況は劇的に変化しました。
これは単なるモデルチェンジの話ではなく、ハーレーダビッドソンというブランドが、より広い層のライダーを受け入れようとする大きなパラダイムシフトです。
ここでは、多くのライダーが気にしている「普通自動二輪免許(中免)」とハーレーの排気量の関係について、最新の市場動向や私の見解を交えて徹底的に解説します。
ハーレーのバイクは何ccからあるのか

「ハーレーに乗りたいけれど、いきなりリッター越えの大型バイクは怖い」「体力的に重いバイクを支えられるか不安だ」そう感じる方は少なくありません。
特に初めて輸入車を検討される方にとって、排気量の大きさは期待よりも不安の種になりがちです。
では、現在販売されているハーレーのバイクは何ccからラインナップされているのでしょうか。その答えを探るには、少しだけ時計の針を戻してみる必要があります。
ほんの数年前まで、ハーレーのカタログに載っている最小排気量は「883cc」でした。いわゆる「パパサン」と呼ばれ親しまれたスポーツスターモデルです。
883ccでも国産バイクの感覚からすれば十分に大型であり、当然ながら大型自動二輪免許がなければ乗ることができませんでした。
その後、水冷エンジンの「ストリート750(749cc)」が登場し、少し敷居が下がりましたが、それでも「ナナハン」クラスであり、中型免許ライダーにとっては高嶺の花であることに変わりはありませんでした。
しかし、結論から申し上げますと、2025年時点での現行モデルにおける最小排気量は353ccです。
これは2023年に鮮烈なデビューを果たした「X350」というモデルによるもので、ハーレーダビッドソンの100年を超える長い歴史の中でも特筆すべきコンパクトさを誇ります。
353ccという数値は、日本のライダーにとって非常に馴染み深い400ccクラス(中型クラス)の枠内に完全に収まるものです。
なぜ今、ハーレーは350ccという小排気量を選んだのでしょうか。そこには、世界的な都市化の流れと、新しいライダー層の獲得という明確な意図があります。
巨大なVツインエンジンで広大なアメリカ大陸を横断するのはハーレーのロマンですが、渋滞の多い東京や大阪の街中をストップ&ゴーで走るには、重厚すぎる車体は時にストレスになります。
353ccというサイズ感は、エンジンの発熱も(空冷大排気量に比べれば)穏やかで、車重も軽く、日常の足として使える気軽さを持っています。
「排気量が小さいとハーレーらしくないのでは?」という心配もあるかもしれません。確かに、お腹に響くような重低音や、アイドリングで車体が揺れるような鼓動感は、大排気量モデルに軍配が上がります。
しかし、このパラレルツインエンジンは、360度クランクを採用しており、等間隔爆発によるスムーズな吹け上がりが特徴です。
これまでの『ドコドコ』という重い鼓動とは異なり、『ルルルッ』と軽やかに回る感覚は、まさにストリートでの扱いやすさを最優先した設計です。
私自身も試乗しましたが、信号待ちからのスタートダッシュの軽快さは、ビッグツインにはない爽快感でした。
現在のハーレーの最小排気量は353cc。かつての「重くて大きい」「大型免許必須」というイメージを完全に覆す、軽量で扱いやすい都市型モデルが存在しています。これは妥協の産物ではなく、新しいハーレーの楽しみ方を提案する戦略モデルです。
車検代はかかりますが、税金だけで見れば、353ccを選んでも家計へのダメージは皆無に近いと言えます。 ただ、中古のスポーツスターなどを選ぶ場合は、バッテリー上がりなどのトラブル対策も知っておくと安心です。
維持に不安がある方は、スポーツスターのバッテリー適合と交換を徹底解説する完全ガイドの記事で予習しておくことをおすすめします。
普通二輪の壁となる排気量400の境界

私たち日本のライダーにとって、切っても切り離せないのが免許制度の問題です。特に排気量400ccという数字は、単なるエンジンの大きさ以上の意味を持つ、非常に高く厚い「境界線」として存在しています。
ご存知の通り、日本の二輪免許は排気量によって細かく区分されています。16歳から取得可能で、多くの教習所で広く門戸が開かれている「普通自動二輪免許(いわゆる中免)」の上限が400ccです。
この免許があれば、スーパーカブからホンダのCB400SF、ヤマハのSR400(現在は生産終了していますが)といった名車たちに乗ることができます。
しかし、401cc以上のバイクに乗るためには、一段階上の「大型自動二輪免許」が必要になります。
| 排気量 | 免許の種類 | 車検 | 代表モデル |
| ~250cc | 普通自動二輪 | なし | (ハーレー現行なし) |
| ~400cc | 普通自動二輪 | あり | X350 |
| 401cc~ | 大型自動二輪 | あり | X500, スポーツスターS, ビッグツイン全般 |
大型免許の取得は、昔に比べれば教習所で取れるようになり容易になったとはいえ、依然としてハードルがあります。費用は10万円前後かかりますし、教習時間も必要です。
また、教習車両(通常は750ccクラス)の重量やパワーに圧倒され、体力的な不安から二の足を踏む方も多いのが現実です。
「ハーレーに乗りたい」という夢を持ちながら、この「大型免許の壁」の前に挫折してしまったライダーは数え切れないほどいました。
従来、ハーレーダビッドソンのラインナップは、エントリーモデルのスポーツスターでさえ883ccあり、この400ccの壁を大きく超えていました。
つまり、「ハーレーに乗る=大型免許を取る」ことが絶対条件であり、それがブランドのプレミアム感を高めていた側面もありつつ、同時に多くのファンを入り口で拒絶する要因にもなっていたのです。
しかし、X350(353cc)の登場は、この長年の常識を打ち破りました。353ccであれば、普通自動二輪免許の区分内です。
つまり、現在400ccまでの免許しか持っていない方でも、教習所に通い直すことなく、今すぐハーレーオーナーになることができるのです。これは日本のバイク市場において革命的な出来事でした。
また、400cc以下の区分であることは、免許だけでなく「車検の有無」以外の維持費面でもメリットがあると思われがちですが、実は日本の制度では250ccを超えると車検が必要になります。
したがって、353ccのハーレーは「中免で乗れる」ものの、「車検はある」という点に注意が必要です。それでも、大型免許取得にかかる時間とコストをショートカットして、憧れのブランドを手に入れられるメリットは計り知れません。
ちなみに、このX350は日本市場を非常に強く意識して導入されたと言われています。世界的に見ても、免許制度で400ccという明確な区分がある主要国は日本くらいだからです。まさに、日本の「中免ライダー」のために用意されたハーレーと言っても過言ではありません。
X350と同時期に発売された兄弟車「X500」は、見た目は似ていますが排気量が500ccです。たった100ccちょっとの差ですが、こちらは明確に「大型自動二輪免許」が必須となります。
中古車サイトなどで探す際は、うっかりX500を選んでしまわないよう、排気量を必ず確認しましょう。
噂のハーレー250cc新型の真相

Googleなどの検索エンジンでハーレーについて調べていると、サジェスト機能で「250cc 新型」というキーワードが頻繁に出てくることに気づくかと思います。
これは、多くの人が「車検のない250ccクラスでハーレーに乗りたい」と強く願っていることの裏返しでしょう。
日本において250cc以下のバイク(軽二輪)は、車検制度が適用されません。2年に1度の車検費用がかからないため、学生や若年層、あるいはセカンドバイクを探している層にとって最強のコストパフォーマンスを誇るクラスです。
もしハーレーから250ccが出れば、爆発的なヒットになることは間違いありません。
しかし、現時点での正確な情報をお伝えすると、ハーレーダビッドソン・ジャパンから250ccの新型モデルは発売されておらず、公式な発売予定のアナウンスもありません。(2025年現在)。
では、なぜこのような噂が絶えないのでしょうか。いくつか理由が考えられます。
一つは、海外市場向けの小排気量モデルの情報が錯綜していることです。例えば、インド市場向けには「X440」という単気筒モデルが発表されていますが、これは440ccです。
また、過去には中国のメーカーと提携して338ccのモデルを開発しているというニュースもありました。
こうした海外の断片的なニュースが、「日本でも小さいハーレーが出るらしい」→「もしかして250ccか?」という期待に変換されて広まった可能性があります。
もう一つは、X350の存在です。「350ccが出る」という情報が伝言ゲームのように広まる過程で、「中型で乗れるハーレーが出るなら、ついでに250ccも出るんじゃないか」という希望的観測が混じったことも考えられます。
私個人の見解としては、ハーレーが250ccを作る可能性は低いと考えています。ハーレーの魅力であるトルク感やブランドのプレミアム性を維持するには、250ccという排気量は少し小さすぎるからです。
350cc~400ccクラスであれば、ある程度のパワーと車格を確保できますが、250ccまでダウンサイジングすると、コスト競争の激しい国産250cc勢(ホンダRebel 250など)と真っ向勝負になり、価格面で苦戦する可能性もあります。
とはいえ、353ccのX350であれば、車検があるとはいえ、重量税や軽自動車税は安く抑えられています。「車検があるから」という理由だけで候補から外すのはもったいないほど、X350の完成度は高いですよ。
毎年4月に払う『軽自動車税』は、250cc以下が3,600円なのに対し、X350を含むそれ以上の小型二輪は6,000円。その差は月額わずか200円です。
また、車検時に支払う『重量税』が発生しますが、これは2年間で3,800円(登録年数による)程度。これらを合わせても、250ccクラスとの税金の差額は年間4,000円前後です。
車検そのものの基本料金や整備代は必要ですが、『税金が高いから』という理由で諦めるほどの差ではないと言えるでしょう。
革命を起こしたX350の350cc

2023年末に日本でのデリバリーが開始され、瞬く間に話題をさらった「X350」。
このモデルが搭載する350cc(正確には353cc)エンジンは、単に排気量が小さいというだけでなく、その設計思想そのものがこれまでのハーレーとは一線を画しています。
まず、エンジン形式にご注目ください。ハーレーといえば「V型2気筒(Vツイン)」が代名詞であり、あの独特の「ドコドコ」という鼓動感はVツインならではのものでした。
しかし、X350はあえて「水冷並列2気筒(パラレルツイン)」を採用しました。これはハーレー史上極めて稀な選択です。パラレルツインはVツインに比べてエンジンの前後長を短くでき、ホイールベースを詰めて旋回性能を高めるのに適しています。
つまり、X350は「直線をドコドコ流す」のではなく、「コーナーをキビキビ曲がる」ことを意識して作られたバイクなのです。

| 項目 | これまでのハーレー (Vツイン) | X350 (パラレルツイン) |
| 形のイメージ | V | || |
| 特徴 | シリンダーがV字に開いている | シリンダーが直立して並んでいる |
| メリット | 独特の鼓動感、トルクが太い | コンパクト、高回転まで回る |
| 乗り味 | ドコドコ(馬の蹄のような音) | ルルルッ(モーターのような滑らかさ) |
エンジンのスペックを見ても、最高出力は36HPを9,500rpmという高回転で発生させます。
従来の空冷スポーツスターが低回転トルク型だったのに対し、X350はエンジンを回してパワーを絞り出す、非常にスポーティな性格を与えられています。
デザインも、ハーレーが1970年代から活躍しているフラットトラックレースの名車「XR750」をオマージュしており、都会のスクランブラーといった佇まいです。
車両重量は195kg。これはハーレーの中ではフェザー級の軽さです。教習車のCB400SFが約200kgですから、それよりも軽いのです。シート高も777mmと低く、足つき性は抜群。
信号待ちでの不安感はほとんどありません。女性ライダーや、リターンライダーで体力に自信がない方からも、「これなら乗れる!」という喜びの声が多く聞かれます。
そして何より衝撃的だったのが価格です。発表当時の価格は69万9,800円。70万円を切るプライスタグは、近年の国産400ccバイクの新車価格と同等か、あるいはそれ以下です。
「予算は抑えたいけれど、新車じゃなくてもいいから大きなハーレーに乗りたい」という方は、予算100万円以下で狙える中古ハーレー特集も参考にしてみてください。意外な掘り出し物が見つかるかもしれません。
「ハーレーは高くて手が出ない」というイメージを完全に払拭し、若者が最初のバイクとして現実的に選べる選択肢になりました。これはまさに、ハーレーダビッドソンによる「価格と排気量の革命」と言えるでしょう。
詳しいスペックや最新情報は、公式サイトでも確認できます。(出典:Harley-Davidson Japan『X350』)
ハーレー排気量の最大と最小を比較

ハーレーダビッドソンというブランドの懐の深さは、ラインナップされている排気量の幅広さにも表れています。同じディーラーのショールームに、軽自動車並みの排気量差があるバイクが並んでいる光景は圧巻です。
ここでは、現行モデルにおける排気量 最大 最小を具体的な数値で比較し、それぞれの世界観の違いを見てみましょう。
| 項目 | 最小モデル (X350) | 最大級モデル (CVO等) |
|---|---|---|
| 排気量 | 353cc | 1,977cc (121ci VVT) |
| 免許区分 | 普通自動二輪(中免) | 大型自動二輪 |
| エンジン形式 | 水冷並列2気筒 | 水冷/空冷 V型2気筒 |
| 最高出力 | 36 HP | 115 HP以上(仕様による) |
| 最大トルク | 31 Nm | 183 Nm |
| 車両重量 | 195 kg | 約 400 kg |
| 価格帯 | 約 70万円〜 | 約 600万円〜 |
| 得意なシーン | 街乗り、通勤 ショートツーリング | 大陸横断、高速巡航、長距離旅 |
表をご覧いただくと分かる通り、最小の353ccと最大の1,977ccでは、排気量において約5.6倍もの開きがあります。最大トルクに至っては約6倍もの差があり、もはや全く別の乗り物と言っても過言ではありません。
X350は、スニーカーのように気軽に履いて出かけられる「日常の相棒」です。コンビニへの買い物から、週末の峠道まで、気負わずに楽しめる軽快さが魅力です。
一方、約2000ccのCVOモデルは、言うなれば「二輪のリムジン」や「陸のクルーザー」です。圧倒的な質量とパワーで、高速道路をどこまでも快適に走り続けるために生まれてきました。
風を切るというよりは、大気を切り裂いて進むような重厚感があります。
重要なのは、どちらが優れているかという比較ではなく、ハーレーダビッドソンの中にこれほど多様な選択肢が存在するということです。
排気量が小さいからといって「本物のハーレーではない」などと卑下する必要は全くありません。自分のライフスタイルや乗り方に合わせて、最適な排気量を選ぶことができる。それが今のハーレーダビッドソンの面白さなのです。
歴代モデルに見るハーレーは何ccかの変遷
ハーレーダビッドソンというブランドの歴史をエンジンの側面から紐解くと、それはまさに「排気量拡大(ボアアップ)」と「パワー追求」の歴史そのものです。
「もっと速く走りたい」「もっと遠くへ行きたい」「もっと強烈な鼓動を感じたい」――そんなライダーたちの渇望と、厳しくなる環境規制とのせめぎ合いの中で、ハーレーのエンジンは時代とともに巨大化の一途を辿ってきました。
創業当時の単気筒モデルから始まり、Vツインの誕生、そして現代のモンスターエンジンに至るまで、その進化は止まることを知りません。
ここでは、歴代の代表的なエンジンを振り返りながら、ハーレーがどのように進化し、なぜここまで排気量が大きくなったのかを、具体的な数値を交えて詳しく見ていきましょう。
この歴史を知ることで、あなたの愛車や、これから手に入れようとしているハーレーが持つ「エンジンの物語」をより深く理解できるはずです。
歴代エンジンの排気量一覧と特徴

ハーレー乗りたちの会話では、年式やモデル名よりも「エンジン名」で語り合うことがよくあります。「エボに乗ってるんだ」「次はツインカムが欲しいな」といった具合です。
それぞれのエンジンには、その時代を象徴する排気量と、独特の乗り味(フィーリング)があります。ここでは、特に日本で人気の高い歴代ビッグツインエンジンの変遷を詳細に解説します。
ナックルヘッド / パンヘッド / ショベルヘッド(~1984年)
ヴィンテージハーレーとして神格化されているこれらのエンジンは、1000cc(61ci)や1200cc(74ci)、そしてショベルヘッド後期には1340cc(80ci)へと進化しました。
現代の基準から見れば決して大排気量ではありませんが、当時の技術レベルや道路事情を考えれば、これらは紛れもない「スーパーバイク」でした。
特にショベルヘッド(1966-1984)の1340ccエンジンが奏でる、不規則で乾いた「三拍子」のリズムは、今なお多くのファンを魅了してやみません。エンジンの造形美と鼓動感のバランスにおいて、一つの完成形と言えるでしょう。
エボリューション (Evolution):1340cc (80ci)
1984年に登場し、ハーレーダビッドソンの信頼性を劇的に向上させたことから「救世主」とも呼ばれる名機です。オールアルミ製のエンジンブロックを採用し、熱ダレやオイル漏れといったトラブルを大幅に軽減しました。
排気量はショベル後期と同じ1340ccですが、その軽快な吹け上がりと、弾けるようなドコドコ感は別物です。映画『ターミネーター2』でシュワルツェネッガーが乗っていたファットボーイもこのエンジンでした。
日本の道路事情において、パワーを持て余すことなく「使い切って走れる」最後の大排気量空冷エンジンとして、現在でも中古車市場で絶大な人気を誇ります
ツインカム (Twin Cam):1450cc ~ 1801cc
1999年、高速道路網の発達による巡航速度の上昇に対応するために開発されたのがツインカムエンジンです。その名の通りカムシャフトを2本にすることでバルブ開閉の精度を高めました。
初期のTC88(1450cc)から始まり、ストロークアップによってTC96(1584cc)、ボアアップによってTC103(1690cc)、そしてCVOモデル等に搭載されたTC110(1801cc)へと、同じエンジン形式のままで段階的に排気量が拡大されました。
排気量が上がるごとにトルクの厚みが増し、高速道路での余裕が生まれましたが、同時に発熱量も増大したため、ライダーは熱さとの戦いを強いられることにもなりました。
ミルウォーキーエイト (Milwaukee-Eight):1745cc ~
2017年に登場した現行エンジンです。伝統のVツイン形式を守りながら、1気筒あたり4バルブ(合計8バルブ)化することで吸排気効率を極限まで高めました。
排気量は標準モデルで1745cc(107ci)からスタートし、現在は1868cc(114ci)や1923cc(117ci)が主流となっています。
特筆すべきは、アイドリング時の不快な振動を打ち消すカウンターバランサーの優秀さと、空冷フィンを持ちながらシリンダーヘッド周辺を油冷または水冷で冷却する高度な熱対策です。
これにより、大排気量でありながらスムーズで快適な乗り味を実現しています。
レボリューションマックス (Revolution Max):975cc / 1250cc
次世代を担う水冷DOHCエンジンです。スポーツスターSやパンアメリカに搭載されています。排気量の数値だけ見ればビッグツインより小さいですが、可変バルブタイミング機構などの最新技術により、1250ccモデルでは150馬力(本国仕様参考値)を叩き出します。
これは従来の空冷エンジンの倍近い出力であり、ハーレーが「トルク重視」だけでなく「パフォーマンス重視」へと舵を切ったことを示す象徴的なエンジンです。
アメリカ独自の排気量キュービックインチ

ハーレーダビッドソンのカタログやスペック表を見ていると、「114」や「117」、あるいは最新の「121」といった数字が大きくアピールされていることに気づくでしょう。
初めての方にとって、これらは非常に分かりにくい表記かもしれません。「114ccなの?原付より小さいの?」と勘違いしてしまう方もいらっしゃるほどです。
この数字はキュービックインチ(cubic inch = ci:立方インチ)という、アメリカ独自のヤード・ポンド法に基づく体積の単位です。
アメリカという国は、距離をマイル、重さをポンド、液体の量をガロンで表すように、エンジンの排気量も「cc(立法センチメートル)」ではなく「ci(立方インチ)」で表す文化が根付いています。これは彼らのアイデンティティの一部とも言えるでしょう。
私たち日本人に馴染みのある「cc」に換算するには、以下の計算式を使います。
1 ci ≒ 16.387 cc
暗算するのは大変なので、ざっくりと「約16.4倍する」と覚えておけば間違いありません。
| 表記 (ci) | 排気量 (cc) | 主な搭載時期・モデル |
|---|---|---|
| 80 ci | 約 1,340 cc | ショベル後期 / エボリューション全般 |
| 88 ci | 約 1,450 cc | ツインカム初期 (1999-2006) |
| 96 ci | 約 1,584 cc | ツインカム中期 (2007-2011頃) |
| 103 ci | 約 1,690 cc | ツインカム後期 / 初期のツーリングM8 |
| 107 ci | 約 1,745 cc | ミルウォーキーエイト標準モデル |
| 110 ci | 約 1,801 cc | ツインカムCVO / Sシリーズ |
| 114 ci | 約 1,868 cc | 現行ソフテイル / ツーリング上位 |
| 117 ci | 約 1,923 cc | ブレイクアウト / ローライダーS / CVO |
| 121 ci | 約 1,977 cc | 新型CVO (VVT搭載) |
この表を見て「おや?」と思った方もいるかもしれません。そう、ハーレーのエントリーモデルとして長年愛されてきた「スポーツスター883」や「1200」については、なぜかアメリカ本国でも伝統的に「cc」表記が使われているのです。
これには諸説ありますが、かつてイギリス車などの欧州メーカーがライバルだった時代に、国際基準であるcc表記に合わせて対抗した名残だと言われています。
いずれにせよ、エンジンのエアクリーナーカバーに刻まれた「114」という数字を見た瞬間に、「お、これは1868ccのミルウォーキーエイトだな」と脳内で変換できるようになれば、あなたはもう立派なハーレー通です。
この数字の大きさは、そのままオーナーの所有満足度(と、税金や維持費への覚悟)を表しているとも言えるでしょう。
主流となるビッグツイン1800cc時代

2025年現在、ハーレーダビッドソンのディーラーに足を運び、新車のソフテイルファミリー(ブレイクアウト、ファットボーイなど)やツーリングファミリー(ストリートグライド、ロードグライドなど)を眺めると、そのほとんどが1800ccクラスのエンジンを標準で搭載しています。
具体的には「Milwaukee-Eight 114(1,868cc)」が現在のスタンダードとなっています。
ひと昔前の国産乗用車(カローラやシビックなど)と同等、あるいはそれ以上の排気量を、わずか2つのタイヤで支えるバイクに積んでいるのです。
冷静に考えるととんでもないオーバースペックに思えるかもしれません。「なぜバイクにそこまでの排気量が必要なのか?」「1340ccのエボ時代で十分だったのではないか?」という疑問を持つ方も少なくないでしょう。
排気量がここまで巨大化した背景には、大きく分けて2つの理由があります。
一つ目は、世界的に年々厳しくなる「環境規制(排ガス規制)」への対応です。ユーロ5などの厳しい規制をクリアするためには、排ガス中の有害物質を減らす必要があります。
そのための有効な手段の一つが、混合気を薄くして完全燃焼に近づける「リーンバーン(希薄燃焼)」です。
しかし、燃料を薄くすると燃焼温度が上がりやすくなり、空冷エンジンにとっては致命的な熱問題を引き起こす上、パワーが出にくくなります。そこでハーレーは、「排気量を上げてトルクの絶対値を稼ぐ」という力技とも言える手法を選びました。
排気量を上げれば、パワーを抑え気味にセッティングしても十分な走りができ、結果としてクリーンな排ガスと豊かなトルクを両立できるからです。
二つ目は、車体の重量化と豪華装備への対応です。最新のツーリングモデルは、電子制御サスペンション、大画面タッチパネルナビ、高出力オーディオ、シートヒーター、ABS、トラクションコントロールなど、高級車顔負けの装備を満載しています。
これによって車重は400kg近くに達することも珍しくありません。この重量級の巨体を、ストレスなく、かつハーレーらしく豪快に加速させるためには、1800cc級が生み出す強大なトルクが必要不可欠なのです。
実際に114ci(1868cc)のモデルに試乗すると、その恩恵はすぐに分かります。アクセルをほんの数ミリ開けるだけで、怒涛のトルクが湧き上がり、車体の重さを完全に忘れさせてくれます。
高速道路の合流や追い越し加速では、ギアを落とすことなく、右手の操作だけで瞬時にワープするような感覚を味わえます。この「余裕」こそが、現代のビッグツインハーレーの最大の魅力であり、1800ccという排気量が導き出した最適解なのです。
ついに到達した2000cc超えの世界

「排気量はどこまで大きくなるのか?」
ハーレーファンなら誰もが一度は抱くこの問いに対し、メーカーは驚くべき答えを用意しました。ついに、量産市販車レベルで2000cc 超えが現実のものとなりつつあるのです。
その先駆けとなったのが、ハーレーダビッドソンの最高峰ラインである「CVO(Custom Vehicle Operations)」シリーズです。
2023年に発表された新型CVOには、新開発の「Milwaukee-Eight VVT 121」エンジンが搭載されました。このエンジンの排気量は1,977cc。2000ccの大台まで、あとわずか23ccというところまで迫っています。
この「VVT 121」エンジンの凄さは、単に排気量が大きいだけではありません。ハーレーのビッグツインとして初めて「可変バルブタイミング機構(VVT)」を採用しました。
これにより、低回転域では燃費と扱いやすさを、高回転域では爆発的なパワーをと、エンジンの性格を瞬時に切り替えることが可能になりました。
1,977ccという巨大なピストンが動いているにも関わらず、街乗りでは意外なほどスムーズで、いざスロットルを開ければアスファルトを削り取るような加速を見せる。まさに内燃機関の極致とも言える仕上がりです。
さらに驚くべきは、ハーレー純正のパフォーマンスパーツブランド「スクリーミンイーグル(Screamin’ Eagle)」から販売されている「ステージキット」の存在です。
これは既存のエンジンをボアアップするための正規パーツですが、これを使用することで排気量を131ci(約2,147cc)や、さらに上の135ci(約2,212cc)まで拡大することが可能です。
2200ccのバイクとなると、もはや常識の範囲を超えています。1気筒あたりの排気量が1100ccもある計算になり、その爆発エネルギーは凄まじい衝撃(パルス)となってライダーの全身を揺さぶります。
これは単なる移動手段としての乗り物ではなく、ガソリンエンジンというものが持つ原始的な力強さを、股の下で直接コントロールするための装置と言えるでしょう。
環境規制でエンジンの電動化が進む現代において、これほど巨大で野性的なエンジンを新車で楽しめるのは、ハーレーダビッドソンだけが提供できる唯一無二のロマンです。
(出典:Harley-Davidson Japan『CVO』)
現行モデル別排気量ランキング

それでは、現在日本で購入できる主なハーレーダビッドソンのモデルを、排気量の大きい順にランキング形式で整理してみましょう。
どのモデルがどのくらいの位置付けなのか、この表を見れば一目瞭然です。(※2025年時点のラインナップに基づく目安です)
| 順位 | 排気量 / エンジン | 主な搭載モデル・特徴 |
|---|---|---|
| 1位 | 1,977 cc (121ci VVT) | CVO ストリートグライド / ロードグライド メーカー純正カスタムの最高峰。可変バルブ搭載の最新鋭エンジン。 価格も500万円オーバーの超弩級クラスです。 |
| 2位 | 1,923 cc (117ci) | ブレイクアウト 117 / ローライダーS / ST 量産車としては実質最大級。以前はCVO専用だったエンジンが標準採用され、 その圧倒的な加速力で現在一番人気のクラスです。 |
| 3位 | 1,868 cc (114ci) | ファットボーイ 114 / ストリートボブ 114 等 現在のソフテイル/ツーリングファミリーのスタンダード。 十分すぎるパワーとトルクを持ち、最もバランスの取れた選択肢と言えます。 |
| 4位 | 1,745 cc (107ci) | ソフテイル スタンダード 等 ミルウォーキーエイトのベース排気量。 上位モデルに比べるとマイルドですが、その分扱いやすく、 エンジンの回転フィールを楽しめると評価する通もいます。 |
| 5位 | 1,252 cc (Rev Max 1250) | パンアメリカ 1250 / スポーツスターS 水冷の新世代エンジン。排気量は中位ですが、馬力(150HP等)は 空冷最大モデルをも凌駕するモンスターマシンです。速さを求めるならこれです。 |
| 6位 | 975 cc (Rev Max 975) | ナイトスター / ナイトスターペシャル 空冷スポーツスター883/1200の実質的な後継ポジション。 高回転まで淀みなく回る軽快さが魅力で、街乗りからツーリングまでこなします。 |
| 7位 | 500 cc | X500 普通二輪免許では乗れませんが、大型エントリーとして扱いやすいサイズ感。 アメリカンロードスタースタイルを楽しめます。 |
| 8位 | 353 cc | X350 現行唯一の普通自動二輪免許対応モデル。ここからハーレーライフを 始める人が急増中。維持費も安く、セカンドバイクとしても優秀です。 |
こうしてランキングにすると、トップの1,977ccからエントリーの353ccまで、階段状にきれいにラインナップが揃っていることが分かります。
予算、免許の種類、体格、そして「どんな走りを楽しみたいか」に合わせて、自分にぴったりの「段」を選ぶことができるのが、現在のハーレーダビッドソンの大きな魅力です。
自分に合うハーレーは何ccかを見つける
ここまで、様々な角度からハーレー何ccについての情報を、歴史や技術、免許制度を交えて解説してきました。
最後に、これからハーレーを選ぼうとしているあなたへ、私からのささやかなアドバイスをお伝えしてこの記事を締めくくりたいと思います。
ハーレーの世界には、「排気量は大きければ大きいほど偉い」という価値観が少なからず存在します。「いつかはCVO」「男ならビッグツイン」といった言葉にプレッシャーを感じることもあるかもしれません。
しかし、私が長年バイクに関わってきて思うのは、スペック上の数字が全てではないということです。
重要なのは、あなたがハーレーという相棒と「どんな時間を過ごしたいか」です。
もしあなたが、毎日の通勤や通学に使いたい、あるいはカフェに行く感覚で気負わず乗りたい、日本の狭い路地裏も探検したいなら、迷わず353ccのX350をおすすめします。
中免で乗れる手軽さと、都市部での機動力は最強の武器になります。これは決して「妥協の選択」ではなく、「賢い選択」です。
もしあなたが、高速道路を使って遠くの街へ旅に出たい、キャンプ道具を積んで走りたい、でも重すぎるバイクは取り回しが不安…というなら、975ccのナイトスターや、中古市場で根強い人気のある883cc/1200ccの空冷スポーツスターが良い選択肢になるでしょう。
もし中古の883を検討されるなら、自分好みに仕上げる楽しみもあります。詳しくはハーレー883のカスタム完全攻略|費用と人気スタイル解説の記事も合わせてご覧ください。
適度な鼓動感と、自分の手の中で使い切れるパワーのバランスが絶妙で、乗るほどに愛着が湧くサイズ感です。
そして、もしあなたが「これぞハーレー」という圧倒的な存在感を求め、地響きのような鼓動と共に地平線の彼方まで走り続けたいなら、迷うことなく1800cc以上のビッグツイン(ソフテイルやツーリングファミリー)の世界へ飛び込んでください。
そこには、他のバイクでは絶対に味わえない、魂が震えるような感動が待っています。重さや熱さは、その感動の前のほんの些細なスパイスに過ぎません。
ハーレーダビッドソンは、排気量の数字に関わらず、乗る人の人生を豊かにしてくれる特別な乗り物です。ぜひ、スペック表の数字だけで判断せず、実際にディーラーへ足を運び、試乗車に跨って、エンジンが奏でる音と振動を全身で体感してみてください。
あなたの感性に響く「運命の排気量」が、きっとそこで待っているはずです。素晴らしいハーレーライフがあなたに訪れることを願っています。

