こんにちは。高級モトクラブ、運営者の「A」です。
久しぶりに愛車のスポーツスターで走り出そうとしたとき、タイヤの空気圧が気になったことはありませんか。
または、ハンドリングが重く感じて、ガソリンスタンドで空気を入れたいけれど、適正な数値や入れ方がわからずに困った経験がある方もいるかもしれません。
実は私自身、ハーレーに乗り始めた頃はタイヤの管理について曖昧で、知らず知らずのうちに走りにくい状態でツーリングをしていました。
スポーツスターの空気圧は、883や1200といった排気量やモデル、タイヤの種類によっても異なりますし、kpaやpsiといった単位の換算も少しややこしいですよね。
この記事では、私が普段実践している空気圧チェックの方法や、モデルごとの適正値に関する情報をわかりやすくシェアします。
- スポーツスターの各モデルに適した空気圧の数値がわかります
- ガソリンスタンド等での空気の入れ方や単位の読み方がわかります
- 空気圧が走りに与える影響やメンテナンスのコツを把握できます
- タイヤトラブルを防ぎ安全にハーレーライフを楽しむ知識が得られます
スポーツスターの空気圧の基礎と確認法
ここでは、まずスポーツスターに乗るなら知っておきたい空気圧の基本についてお話しします。
どこを見れば正解がわかるのか、単位はどう計算すればいいのかなど、基礎を固めておきましょう。正しい知識を持つことが、愛車との対話を深める第一歩になります。
ハーレーの空気圧どこに書いてあるか確認

自分のバイクの適正空気圧を知りたいとき、みなさんはどこを確認していますか?
インターネットで検索するのも手軽で良いですが、ネット上の情報は年式や仕様地によって微妙に異なる場合があり、必ずしもあなたの愛車に合致するとは限りません。最も確実で信頼できる答えは、実はバイク本体そのものに隠されています。
ハーレーダビッドソンの場合、フレームのダウンチューブ(車体前方、エンジンの前の縦に伸びるパイプ部分)の右側、あるいはモデルによってはスイングアーム(リアタイヤを支えているアーム)付近に、黒や銀色の「コーションラベル(警告ステッカー)」が貼られていることがほとんどです。
このステッカーには、車台番号(VIN)や騒音規制に関する情報とともに、その車両に指定されたフロントおよびリアのタイヤサイズ、そして「冷間時の指定空気圧」が明確に記載されています。
まずはしゃがみ込んで、このステッカーを探してみてください。もし中古で購入された車両でステッカーが剥がれてしまっている場合や、カスタムペイントで塗りつぶされてしまっている場合は、必ず付属のオーナーズマニュアル(取扱説明書)を確認しましょう。
手元にない場合は、お近くの正規ディーラーに車台番号を伝えれば、正確な数値を教えてもらえます。「たぶんこれくらいだろう」という推測で空気を入れるのは、最も避けるべき行為です。
ここで一つ、多くのライダーが陥りがちな重大な落とし穴について警鐘を鳴らしておきます。それは、タイヤの側面(サイドウォール)に書かれている「MAX LOAD… AT…PSI」という刻印を見て、その数値に合わせて空気を入れてしまう間違いです。これは非常に危険です。
絶対NG!タイヤ側面の数値は「限界値」です
タイヤのゴム部分に刻印されている数値(例:42 PSIなど)は、「そのタイヤが構造的に耐えられる限界の圧力と、その時の最大荷重」を示しているに過ぎません。
これは、あなたのスポーツスターの車重やサスペンション設定に合わせた「最適値」では決してありません。
この数値に合わせて空気を入れると、ほとんどの場合で空気が入りすぎ(過充填)となり、タイヤがカチカチになってグリップ力が低下したり、跳ねて危険な状態になったりします。必ず「車体側の指定値」を守るようにしてください。
スポーツスターのタイヤ空気圧の重要性

「たかが空気、入っていれば走れるでしょ?」なんて軽く考えていませんか?実はスポーツスターにおいて、タイヤ空気圧はサスペンションの一部と言えるほど、極めて重要な役割を担っています。
ハーレーダビッドソンは、一般的な国産ネイキッドバイクなどに比べて車重が重く(スポーツスターでも250kg〜260kgあります)、その一方でシート高を低くするためにリアサスペンションのストローク量(動く幅)が短く設計されているモデルが多いのが特徴です。
サスペンションが短いということは、路面からの衝撃をバネだけで吸収しきれない場面が出てくるということです。そこで重要になるのが「タイヤのたわみ」です。
タイヤに適正な空気が入っていることで、タイヤ自体が第2のサスペンションとして機能し、路面の凸凹を包み込むように吸収してくれるのです。
もし空気圧が低すぎれば、タイヤが潰れすぎてホイールを傷つける「リム打ち」のリスクが高まり、逆に高すぎれば、タイヤが石のように硬くなって衝撃をダイレクトにライダーに伝えてしまいます。
さらに、安全性という観点からも空気圧管理は避けて通れません。
日本自動車タイヤ協会(JATMA)などの調査によると、多くのドライバーやライダーが空気圧点検を怠っており、空気圧不足のまま走行しているケースが散見されると報告されています。(出典:一般社団法人日本自動車タイヤ協会『JATMA公式サイト』)
空気圧が適正でないと、以下のような深刻なトラブルを引き起こす可能性があります。
空気圧が低い場合(Under-inflation):
- ハンドリングが重くなり、交差点などで曲がりにくくなる。
- タイヤの転がり抵抗が増え、燃費が目に見えて悪化する。
- 高速走行時にタイヤが波打つ「スタンディングウェーブ現象」が起き、最悪の場合バースト(破裂)する。
- タイヤの両端(ショルダー)だけが極端に減る「偏摩耗」が起きる。
空気圧が高い場合(Over-inflation):
- タイヤの接地面積が減り、ブレーキの効きが悪くなったり、コーナーで滑りやすくなる。
- 路面のギャップで車体が跳ね、乗り心地が極端に悪くなる。
- タイヤの中央(センター)だけが早く摩耗し、タイヤ寿命が縮む。
私たちが週末に気持ちよくクルージングできるのは、タイヤという「黒いゴムの風船」が適切な圧力で仕事を果たしてくれているからこそなのです。
愛車を大切に思うなら、エンジンオイルの交換と同じくらい、あるいはそれ以上に、空気圧のチェックに情熱を注いでみてください。
空気圧のkpa換算とは

ハーレー乗りを悩ませる「あるある」の一つが、圧力単位の混在問題です。
ハーレーダビッドソンはアメリカのメーカーなので、マニュアルや車体のステッカーには、ヤード・ポンド法の単位である「PSI(プサイ:Pound-force per Square Inch)」が使われています。
しかし、私たちが住む日本のガソリンスタンドにある空気入れのメーターは、国際単位系である「kPa(キロパスカル)」表記が一般的です。古いゲージだと「kgf/cm²(キログラムフォース)」が使われていることもありますね。
この単位の違いのせいで、「マニュアルには36って書いてあるけど、スタンドのメーターは200とか300とか書いてあって、どこに合わせればいいのか全くわからない!」とパニックになる初心者の方は非常に多いです。でも安心してください。
簡単な換算式を頭に入れておくだけで、どこへ行ってもスムーズに対応できるようになります。
ざっくりとした現場での目安として、「1 PSI = 約 7 kPa」という魔法の数字を覚えておきましょう。厳密には 1 PSI = 6.895… kPa なのですが、日常のメンテナンスレベルでは「×7」の暗算で十分許容範囲内に収まります。
以下の表は、スポーツスターでよく使われる数値をまとめた早見表です。スマホに保存しておくと便利ですよ。
| PSI (米国基準) | kPa (日本基準) | kgf/cm² (旧基準) | 主な用途の目安 |
|---|---|---|---|
| 30 PSI | 約 210 kPa | 2.1 | 883系のフロント標準 |
| 32 PSI | 約 220 kPa | 2.2 | 少し高めのフロント設定 |
| 36 PSI | 約 250 kPa | 2.5 | 48系のフロント / 883系のリア |
| 40 PSI | 約 280 kPa | 2.8 | リア標準 / タンデム時 |
| 42 PSI | 約 290 kPa | 2.9 | 新型モデルのリア / 重積載時 |
最近では、ボタン一つで表示単位をPSI、kPa、Barと切り替えられる「デジタルエアゲージ」も安価で販売されています。
計算が面倒だという方や、より正確に管理したいという方は、一つ持っておくとツーリング先でも重宝します。私もツールバッグには必ずデジタルゲージを忍ばせています。
ガソリンスタンドでの測定

ツーリングの途中で「あれ?なんかタイヤが潰れている気がする」と不安になったり、ハンドリングに違和感を覚えたりして、急遽ガソリンスタンドの空気入れを借りるシチュエーションはよくあります。
ガソリンスタンドでの空気入れは非常に便利ですが、バイク、特にハーレーで使用する際にはいくつか特有の注意点とコツが存在します。
最大の注意点は、「冷間時(Cold)」と「温間時(Hot)」の圧力差です。メーカーが指定している「指定空気圧」は、あくまで「タイヤが冷えている状態(走行前)」の数値です。
しかし、ガソリンスタンドに到着した時点では、すでに家からそこまで走ってきているため、タイヤは路面との摩擦や内部の変形によって熱を持ち、中の空気は膨張して圧力が上がっています。
この「温まった状態」で、マニュアル通りの数値(例えばリア40 PSI)ピッタリに合わせてしまうとどうなるでしょうか?
家に帰ってタイヤが冷えた頃には、空気が収縮してしまい、実際には36 PSIや35 PSIといった「空気圧不足」の状態になってしまうのです。これではせっかく入れたのに意味がありません。
走行直後の調整テクニック
ガソリンスタンド(温間時)で空気を入れる場合は、熱膨張分を考慮して、指定値よりも10%〜20kPa(2〜3 PSI)ほど高めに入れるのが鉄則です。
例:
指定が280kPaなら、スタンドでは300kPaくらいに合わせておく。
そして、翌朝タイヤが冷え切った状態で再度マイゲージで測定し、余分な空気を少し抜いて指定値ピッタリに合わせるのが、最も精度の高い管理方法です。
また、ハード面での問題もあります。ガソリンスタンドの空気入れのノズル(チャック)は、主に四輪車用に設計されているため、形状が長く棒状になっていることが多いです。
スポーツスター、特にダブルディスクブレーキのモデルや、スポークホイールのモデルの場合、ブレーキディスクやハブが邪魔をして、この長いノズルがバルブにうまく差し込めないことが多々あります。無理にねじ込もうとするとバルブを痛めてしまうことも。
こうした事態を避けるために、私はL字型の「エクステンションエアバルブ(アダプター)」を常に携行しています。
これをバルブの先にねじ込むだけで、空気入れの口を真横に向けることができるので、どんな形状のスタンドの空気入れでもストレスなく使用できるようになります。数百円で買えるアイテムですが、効果は絶大です。
空気圧の適正が高い設定のメリット

指定値通りに入れるのがメンテナンスの基本中の基本ですが、ベテランライダーの中には、自分の好みや走行シチュエーションに合わせて、あえて少し「高め」に設定する人もいます。
もちろん指定値を下回るのは危険ですが、許容範囲内で高くすることには、いくつかの明確なメリットが存在するからです。
まず最大のメリットは「燃費の向上」と「転がり抵抗の低減」です。自転車のタイヤをパンパンにした時を想像してみてください。軽い力でスイスイ進みますよね?あれと同じ現象がスポーツスターでも起きます。
空気圧を高めにするとタイヤの変形が抑えられるため、アクセルを開けた時の反応がダイレクトになり、重い車体が軽く感じられるようになります。長距離の高速道路ツーリングなどでは、この「軽さ」が疲労軽減にもつながります。
また、「偏摩耗(段減り)の抑制」にも効果があります。特に重量のあるハーレーは、空気圧が低い状態で走り続けると、タイヤの接地面が過度に動き、トレッドパターンが段々に削れる「ヒール&トゥ摩耗」などが起きやすくなります。
少し高めに入れて剛性を確保することで、きれいにタイヤを使い切ることができます。
しかし、物事には裏表があります。空気圧を上げすぎることのデメリットも理解しておく必要があります。
高圧設定のデメリットと注意点
- 乗り心地の悪化:
サスペンションが硬くなったような感覚になり、路面の継ぎ目やマンホールの段差で「ガツン」という突き上げを強く感じるようになります。 - 接地感の希薄化:
タイヤが潰れにくくなるため、タイヤが路面を掴んでいる感覚(グリップ感)がわかりにくくなります。 - 雨天時のリスク:
接地面積が減るため、雨の日のマンホールや白線の上で滑りやすくなる可能性があります。
結論として、私がおすすめする「高め設定」の目安は、メーカー指定値+10%程度までです。例えば指定が250kPaなら、270〜275kPaくらいまでがスイートスポットです。
これ以上上げるとデメリットの方が大きくなる傾向があります。自分のライディングスタイルや好みに合わせて、0.1キロ単位で微調整して「一番気持ちいいところ」を探すのも、バイク趣味の醍醐味の一つですね。
モデル別スポーツスターの空気圧の適正値
ここからは、スポーツスターの主要なモデルごとに、具体的な空気圧の目安を詳細に見ていきましょう。
「スポーツスター」と一口に言っても、2004年以降のラバーマウントモデル、それ以前のリジッドマウント、そして最新の水冷モデルまで、その歴史は長く、装着されているタイヤサイズもバラバラです。自分のモデルに合った数値を正しく把握することが大切です。
スポーツスター883の指定空気圧

まずは、スポーツスターの代名詞とも言える883ccモデルです。「アイアン883(XL883N)」や「883R」、「パパサン」の愛称で親しまれるスタンダードな「XL883」などがこれに含まれます。
これらのモデルは、フロントに19インチ(100/90-19)、リアに16インチ(150/80-16など)のタイヤを装着しているのが一般的です。
メーカー指定の一般的な目安(ソロ乗車時)は以下の通りです。
- フロント: 30 PSI (約 210 kPa)
- リア: 36〜40 PSI (約 250〜280 kPa)
この「フロント30 PSI」という数値は、ハーレーの中では比較的低めの設定です。これは細身のフロントタイヤを適度に変形させて、路面追従性を高めるための設定と考えられます。
しかし、街乗りで交差点を曲がる際に「ハンドルが切れ込んで怖い」と感じたり、タイヤの編摩耗が気になる場合は、フロントを少し高めの32 PSI(約220 kPa)程度にすると、ハンドリングがナチュラルになり、タイヤの持ちも良くなる傾向があります。
リアタイヤに関しては、マニュアルには「ソロ乗車時は36 PSI」と書かれている年式もありますが、私はあえて40 PSI(約280 kPa)を推奨します。
理由はシンプルで、日本の道路事情ではストップ&ゴーが多く、リアタイヤにかかる負荷が大きいこと、そして36 PSIだと少し空気が抜けただけですぐに30 PSI台前半まで落ちてしまい、管理がシビアになるからです。
最初から40 PSIに合わせておけば、多少抜けても安全マージンを確保できますし、急に後ろに友人を乗せることになっても対応しやすいというメリットがあります。
スポーツスター1200の適正値

次に、トルクフルな走りが魅力の1200ccモデルを見てみましょう。
ここで特に注意が必要なのが、大ヒットモデルである「フォーティーエイト(XL1200X)」や「1200カスタム(XL1200C)」のように、フロントに16インチの極太タイヤ(130/90-16)を履いている車両です。
フォーティーエイトのようなファットフロントタイヤ装着車の目安:
- フロント: 36 PSI (約 250 kPa)
- リア: 40 PSI (約 280 kPa)
ここで絶対に間違えてはいけないのがフロントの数値です。883系と同じ感覚で「フロントだから30 PSIでいいや」と思って入れると、完全な空気圧不足になります。
フォーティーエイトのフロントタイヤはエアボリュームが大きく、車体を支えるために高い内圧を必要とします。指定値は36 PSIです。
もしフォーティーエイトでフロントを30 PSIにして走るとどうなるか。経験がある方もいるかもしれませんが、交差点でバイクを寝かし込もうとした瞬間にハンドルがズシリと重くなり、思うように曲がれない、あるいは逆にカクンと急に切れ込むような非常に不快な挙動を示します。
これはタイヤの剛性が足りずに変形しすぎている証拠です。「フォーティーエイトは曲がりにくい」と感じている人の何割かは、実は単なる空気圧不足だったりするのです。
指定値の36 PSI、あるいは38 PSIくらいまで試してみると、驚くほど軽快に走れるようになりますよ。
xl1200sの空気圧とスポーツ系設定

少し時計の針を戻して、2003年以前のリジッドマウント時代の名車「XL1200S スポーツ」についても触れておきましょう。
ツインプラグエンジンにフルアジャスタブルサスペンションを備えたこのモデルは、今でも「走れるスポーツスター」として根強い人気があります。
この時代の純正指定空気圧は、現代の基準からすると驚くほど低い数値(フロント20 PSI台後半など)が記載されていることがありますが、これは当時の純正タイヤ(バイアスタイヤの古い設計のもの)を基準にした数値です。
現在、XL1200Sに乗っている方の多くは、ダンロップのGT601やブリヂストンのBT46といった、現代的な性能を持つハイグリップバイアスタイヤや、スポーツタイヤに履き替えているはずです。
現代のタイヤを履く場合、古いマニュアルの数値をそのまま鵜呑みにするのは得策ではありません。
タイヤの剛性設計が進化しているため、現代的な基準に合わせて調整する必要があります。スポーツ走行を楽しむためのセッティング例としては以下の通りです。
XL1200Sのスポーツ走行向けセッティング例
- フロント:
30〜32 PSI (約 210〜220 kPa)
※ブレーキング時の安定感を出すために、少し高めにするのがトレンドです。 - リア:
36〜38 PSI (約 250〜260 kPa)
※グリップ力を稼ぐために、あえて40までは上げず、タイヤを潰して接地面積を稼ぐセッティングです。
ワインディングロードを攻めるのが好きな方は、冷間時にこの数値に合わせて出発し、休憩中にタイヤが熱くなった状態でのフィーリングの変化を楽しんでみてください。
「熱が入ってグリップしてきたな」という感覚と共に、内圧上昇による剛性感の変化を感じ取れるようになれば、あなたはもう立派なタイヤマイスターです。
スポーツスターsの空気圧と新型の基準

さて、ここからはハーレーダビッドソンの新しい歴史を切り拓く水冷モデル、「スポーツスターS(RH1250S)」や「ナイトスター(RH975)」についてお話しします。
これらのモデルは、従来の空冷スポーツスターとはエンジンもフレーム構造も全く異なる、いわば「別の乗り物」です。当然、タイヤの空気圧に対する考え方もアップデートする必要があります。
まず、衝撃的なデビューを果たしたスポーツスターSですが、このバイクのタイヤサイズは異次元です。
フロントになんと160mm幅という、一昔前のビッグバイクのリアタイヤ並みの太さのタイヤを履いています。この極太タイヤで軽快なハンドリングを実現するために、メーカーは非常に緻密な空気圧設定を指定しています。
マニュアル等の基準値(冷間時):
- フロント: 36 PSI (約 248 kPa)
- リア: 42 PSI (約 290 kPa)
ここで注目していただきたいのは、リアの42 PSI(約 290 kPa)という数値です。これは従来の空冷スポーツスターの基準(36〜40 PSI)と比べると、かなり高めの設定になっています。
なぜこれほど高いのか?それは、Revolution Maxエンジンの強烈なパワー(120馬力オーバー)を受け止め、かつ高剛性な車体を支えるために、タイヤ自体の剛性(張り)を強く保つ必要があるからです。
もし「ハーレーは全部40 PSIくらいでいいだろう」という古い感覚で、スポーツスターSのリアを36 PSI程度にしてしまうと、加速時にリアが腰砕けになったり、トラクションコントロールなどの電子制御が介入するタイミングがズレたりして、本来の性能を発揮できなくなる恐れがあります。
最新のマシンこそ、数値にシビアになるべきです。
また、弟分であるナイトスターの設定も興味深いです。こちらはフロント19インチ、リア16インチというクラシックな構成ですが、指定値は非常にユニークです。
- フロント: 31 PSI (約 214 kPa)
- リア: 41 PSI (約 283 kPa)
「30」でも「32」でもなく「31 PSI」。この半端な数字に、開発エンジニアの執念を感じませんか?「30だと柔らかすぎてハンドリングがダルい、でも32だと跳ねる。
31がベストだ!」というテストライダーの声が聞こえてくるようです。デジタルゲージをお持ちの方は、ぜひこの「31」に合わせて、メーカーが意図した「ど真ん中」のハンドリングを体感してみてください。
電子制御と空気圧の関係
新型モデルには、ABSやトラクションコントロール、タイヤ空気圧監視システム(TPMS)などが搭載されている場合があります。
空気圧が大幅に狂うと、タイヤの外径が変わってしまい、車速センサーが誤検知を起こしてエラーランプが点灯することもあります。「警告灯がついた!」と焦る前に、まずは空気圧をチェックするのが現代のトラブルシューティングの基本です。
ツーリングモデルの空気圧との違い

みなさんの周りに、ロードグライドやウルトラリミテッドといった「ツーリングファミリー(FLモデル)」に乗っているハーレー仲間はいませんか?ツーリング先での会話で、「俺のウルトラはリア40 PSI入れてるから、お前のスポスタもそれくらいでいいんじゃない?」なんてアドバイスを受けることがあるかもしれません。
しかし、ここには大きな落とし穴があります。
結論から言うと、「ツーリングモデルとスポーツスターは、数値が似ていても、タイヤに求められる仕事量が全く違う」ということを理解しておく必要があります。
ツーリングモデルは、車両重量だけで400kgを超え、そこにライダーとパッセンジャー、満載の荷物を積めば総重量は600kg近くに達します。そのため、ツーリングモデル用のタイヤ(多くの場合はダンロップD402やD407など)は、サイドウォールが非常に硬く作られており、「ロードインデックス(荷重指数)」も高く設定されています。
一方、スポーツスターは装備重量で250kg〜260kg程度です。
もし、ツーリングモデルと同じ感覚で、耐荷重性能の高いタイヤを履かせたり、過度に高い空気圧(例えばツーリングモデルのフル積載時のような設定)にしてしまうと、スポーツスターの軽い車体ではタイヤを全く潰すことができず、まるでコンクリートの上を鉄の車輪で走っているような、ガタガタの乗り心地になってしまいます。
| 比較項目 | スポーツスター (XL) | ツーリングモデル (FL) |
|---|---|---|
| 車両重量 | 約 250kg | 約 400kg〜 |
| リアタイヤ荷重指数 | 例: 73〜77 (365〜412kg) | 例: 81 (462kg) |
| サスペンション | ストローク短め・硬め | エアサス等・快適性重視 |
| 空気圧の傾向 | ハンドリング重視で調整 | 荷重を支えるため高圧維持 |
逆に、スポーツスター用のタイヤや空気圧の考え方を、重量級のツーリングモデルに適用するのは絶対にNGです。タイヤが重さに耐えきれず、高速道路でバーストする危険性が極めて高くなります。
大切なのは、「同じハーレーだから」と一括りにせず、「自分のバイクの重量とタイヤサイズに合った適正値」を個別に管理することです。他人のバイクの数値はあくまで参考程度に留め、自分のバイクのステッカーやマニュアルを信じましょう。
スポーツスターの空気圧の管理とまとめ
長くなりましたが、最後に日々の空気圧管理のコツと、この記事のまとめをお伝えします。
ここまで読んでくださったあなたは、もう空気圧の重要性を十分に理解されているはずです。あとは「実践」あるのみです。
まず、空気圧チェックの頻度ですが、私は「月に1回」を強くおすすめします。「乗る前」が理想ですが、忙しい現代人にとって毎回はハードルが高いですよね。
でも、月に1回ならどうでしょう?給料日や、第一日曜日など、自分の中で「空気圧の日」を決めてしまうのが継続の秘訣です。
タイヤの空気は、ゴムの分子の隙間を通って、乗らなくても自然に少しずつ抜けていきます。私の経験上、健康なタイヤでも1ヶ月放置すれば10〜20kPa(1〜3 PSI)程度は自然減します。
つまり、2〜3ヶ月放置したバイクは、確実に「空気圧不足」の状態にあるということです。久しぶりにカバーを外して走り出すときは、エンジンを温める前に、まずタイヤに愛を注いであげてください。
また、バルブキャップ(空気を入れる口の蓋)の閉め忘れや、パッキンの劣化にも注意してください。バルブキャップは単なる埃よけではなく、万が一バルブコア(中の弁)から微量な空気漏れがあった場合に、最後の砦として空気を止める役割も果たしています。
金属製のかっこいいキャップに変えるのも良いですが、必ずゴムパッキンが付いているものを選びましょう。
それでは、今回の記事の重要ポイントを振り返ります。
- 正解は車体にあり:
ネットの噂よりも、フレームのステッカーやマニュアルの数値を絶対の基準にする。 - 冷間時が基本:
走行前の冷えた状態で測るのがベスト。スタンド(温間時)で入れるなら少し(+10%程度)多めに入れる。 - 単位の魔法:
「1 PSI = 約 7 kPa」を覚えておけば、どこへ行っても怖くない。 - モデル別の個性:
883の軽快さ、48の重厚さ、スポーツスターSの高性能、それぞれに合った「指定値」がある。 - 高めのメリット・デメリット:
燃費や軽快さを求めて高くするのはアリだが、上限は+10%まで。上げすぎは危険。
たかが空気、されど空気。
「最近、なんだかバイクが重いな」「カーブが怖いな」と感じたら、高いカスタムパーツを買う前に、まずはガソリンスタンドで100円の空気を足してみてください。それだけで、あなたのスポーツスターは、納車された日のような軽快な翼を取り戻すかもしれません。
適切なメンテナンスで、安全で最高に楽しいハーレーライフを!現場からは以上です。
※本記事の情報は、特定の年式やモデルに基づいた一般的な目安です。
タイヤの銘柄変更(カスタム)を行っている場合や、年式による仕様変更がある場合は、必ず現車のオーナーズマニュアル、またはタイヤメーカーの推奨値をご確認ください。不安な場合は、正規ディーラーや信頼できるプロショップへ相談することを強く推奨します。

